2016年10月

◎ 「ミツバチ」

日本ミツバチ


小屋の床下に日本ミツバチ(注1)が巣を作って4か月になる。
ほぼ毎日の様に巣を覗き込んでいる。
野生の生き物の生態を観察するのは面白い。
身の回りに野生の生き物がいると毎日が楽しくなる。

ミツバチの生態を観察するのは初めてであるが、ミツバチが好きで、
野や山に出掛けてその自然の生態を観察するのが趣味だという人の
話では、ミツバチが好きになると一生その魅力の虜になるとのこと。
ミツバチのどこがそんなに面白いのか?
それはミツバチがどことなく我々人間に似ているからだと思う。
蜂が人間に似ているなどと言えば変かも知れないが、観察していると
そんな風に感じる時がある。
ミツバチのどこが人間に似ているのかというと感情的なところ。
とは言っても実際にミツバチに感情が有るのか否かは分からない。
しかし巣作りや集蜜の様子を観察しているとミツバチが嬉しがったり、
怒ったり、時にはイライラしたり、不安がったりしているように見える。

ミツバチは数が増えるとその一部が一匹の女王蜂を伴って「分蜂」する。
本家から分家して別の場所に一家を構えるのである。
小屋の床下にやって来たのはその分蜂群である。
分蜂するミツバチは新しく巣を作る場所を決めるに当たって、まず
周囲に雑草や雑木が十分に有って蜜を集め易い環境の土地を探す。
ミツバチにとって蜜と花粉は生きるためのエネルギー源である。
従ってそれらを集め易い土地に巣を作ることが絶対条件である。
その様な土地が見つかると次にはその土地の中で温度、湿度、
外敵、飛行し易さ等の条件を加味して巣作りの場所を決める。
小屋の床下に分蜂群が住み付いたということは、そこがそれらの
諸条件を満たす場所だったからである。

ところで分蜂した群がこれから先順調に生きて行くことが出来るか
否かはまずもって女王蜂の産卵能力に掛かっている。
産卵能力の優れた女王蜂は一日に1000〜1500個もの卵を産むが、
卵は約3週間程で成虫の働き蜂になる。
働き蜂の数が多いと集蜜も上手く行き、分蜂群は栄えることになる。
しかし女王蜂の産卵能力が劣っていると分蜂群は十分な数の働き蜂を
維持していくことが出来ない。
集蜜時期の働き蜂の寿命は約二か月であり、女王蜂の産卵数が
足りないと次第に働き蜂の数が減って来ることにもなる。
そうなると当然であるが集蜜はうまく行かない。
集蜜が上手く行かないと分蜂群そのものが消滅したり、越冬中に
凍死して全滅することもある。

従って分蜂はそれに同行したミツバチにとっては運命の分かれ道である。
これから先自分たちは幸福になれるのかそれとも不幸が待っているのか。
分蜂した当初は蜂たちはきっとそのことがとても不安なのである。
まずは必死になって巣作りをして女王蜂の産卵場所を作るのであるが、
その頃は観察していてもミツバチの必死さが伝わってくる。
巣作りにも集蜜にも余裕が感じられない。
わき目も振らずに作業しているように見える。
そんな切羽詰まった状態の故であろうが、人間が不用意に巣に近づいたり
作業の邪魔をするとミツバチが人間の顔に体当たりをして来る。
「邪魔すると怒るぞ!」という意思表示である。
その頃の働き蜂はきっと体力的にも限界に近い状態なのであろう、
蜂の身体は痩せて、皮膚の色艶も悪い。
小屋の床下に引っ越して来てからの数週間はそんな様子だった。

分蜂群が住み付いて一か月位が経過すると、女王蜂が生んだ卵から
最初の成虫が誕生して来る。
そしてそれ以降は次から次と成虫が誕生しては働き蜂になって行く。
働き蜂の数が順調に増えて来ると蜂たちに活気が出て来る。
「良かった、自分達の女王の産卵能力は優れている。これで家族の
将来は安泰だ」と感じているのかも知れない。
集蜜が順調になるに連れて個々のミツバチの栄養状態も良くなり、
身体が太って来る。
また皮膚の色艶にも潤いが出て美しくなる。
その様な訳で、分蜂群が栄えるか否かは働き蜂の数に掛かっている
のであるが、働き蜂の数が増えるか否かはひとえに女王蜂の産卵能力
に掛かっている訳である。

集蜜に余裕が出て来ると蜂たちはそれまでの必死さから解放されて
日向ぼっこ?をしたりお互いに毛づくろいをし合ったり、更には
じゃれ合ったり?して遊ぶようになる。
また次第に人間にも慣れて手の指に乗ったりもする。
その様子は見ていて微笑ましい。
ミツバチが我々人間に似ていると感じるのはそんな時である。
ミツバチの本を読むと、彼らは生活に十分な余裕が出て来ると
「かくれんぼ」をして遊ぶ様になるとのことであるが、残念ながらそれは
まだ観察したことがない。
それにしても蜂がかくれんぼ遊びをするとは何とも意外である。
かくれんぼをするにはかなりの知能が必要であろうが、実際ミツバチは
昆虫類の中では最も知能が高いと言われている。
ミツバチの進化の歴史は天敵のスズメバチとの知恵比べの歴史であった。
その知恵比べがミツバチの知能を進化させたのだという。

ところでミツバチ一家の家族構成であるが、一匹の女王蜂を中心に
数千〜数万匹の働き蜂(全て雌)と数十〜数百匹の雄蜂で構成される。
女王蜂はもっぱら産卵するのが役目、働き蜂はもっぱら働くのが役目
であるが、雄蜂の役目は何かというと女王蜂との”交尾飛行”
(ミツバチは空中で交尾をする)である。
しかしその交尾飛行には雄蜂の命が掛かっている。
他の雄蜂との競争に勝って運良く交尾をすることが出来ても、雄蜂は
交尾を終えると地上に落下して絶命する。
一方で雄蜂は交尾飛行の時以外は特に何もすることが無い。
普段は雌蜂に身の回りの世話をしてもらい、雌蜂の集めた蜜を
食べながら一日中ぶらぶらしているらしい。
その様に一見優雅な生活の雄蜂ではあるが、秋になって蜜の蓄えが
減って来ると口減らしのために巣を追い出される(出て行く)のだという。
そして追い出された雄蜂はそのまま餓死する。
ミツバチの生活は群れを維持することが最優先で、群れの構成員は
必要に応じて身を挺してその為の犠牲になる。
群れそのものが一匹の個体で群れの構成員はその個体の細胞と
見ることが出来るのかも知れない。

「もしミツバチが絶滅すればその4年後には人類が滅びる」と言ったのは
相対性理論で有名なあのアインシュタインである。
アインシュタインはミツバチの生態にも詳しかったらしい。
野菜や果物など、人類の食料の約3割はミツバチの受粉の恩恵である
ことをアインシュタインは良く知っていたのである。
もしミツバチが絶滅すれば人類の食料事情はもちろんのこと、自然の
生態系にも多大な影響が出るとのこと。
ところが数年前にミツバチの絶滅を予感させる出来事が実際に有った。
ニュースでも報じられたのでご存知の人も多いと思うが、日本を含む
世界中のあちこちでミツバチが突然姿を消したのである。
その原因が農薬にあったことはほぼ突き止められている。
世界中の農地で大量に使用される各種の農薬は昆虫類にとっては
まさに毒薬である。
ミツバチの死滅は人為的な自然破壊や乱開発によっても起こるが、
いずれにしてもミツバチが死滅するような環境は人間にとっても
良い環境であるはずはない。

ところで哲学的に考えると宇宙はその全体が一つの調和体なのだという。
またそれ故に地上の全ての生命現象は同じ一つの現象なのだという。
難しい話ではあるが、直観的には分かる気がする。
アインシュタインが言った様に人間とミツバチの命が一体である
というのはきっとその通りに違いない。



(注1) ミツバチの種類

養蜂家が飼っているのはたいてい西洋ミツバチであるが、
西洋ミツバチは飼育の歴史が長いため性質は家畜化している。
一方日本ミツバチは自然界に生きる野生種である。







(画像は日本ミツバチ・・・生態を知って付き合えば刺されることはない)


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